「この学校なら、学力だけでなく人間の中身を見てくれる」
「自分がしてもらったように、生徒たちと向き合いたい」

2017.11.13 卒業生

帰ってきた飄々ガール/40期・2007年4月卒

國久 麻美

asami kunihisa

プロフィール

1988年2月生まれ 東京都出身
2004年4月 地元の私立女子高校に進学するも、1年目に中退。
2005年4月 北星学園余市高校に入学。
卒業後は地元の東京に戻り、様々な職業を経験。
2015年4月より母校の北星余市高校で庶務全般に従事。
教師陣を実務で支えるかたわら、生徒たちとも日々向き合っている。

かつては生徒として通っていた北星余市高校で、今は事務職員としてせっせと働く國久麻美ちゃん。学校ホームページに書いているブログ『北星余市はいま!』も好評です。そんな彼女が東京に帰省しているところをキャッチしたのは、真夏の日差しが眩しい2017年8月5日の昼下がり、大井町駅前のレストランでした。飄々(ひょうひょう)とした語り口と、飾らない笑顔がステキな麻美ちゃんは、約2時間ランチタイムのおしゃべりに付き合ってくれました。

(聞き手・PTA林田真理子)

 

INTERVIEW

卒業生キラ星インタビュー

ーー 今は何年目?

卒業してから8年目で事務職員として入って、今年で3年目です。最初はある先生から、教え子と働くなんて変な感じって言われたりして(笑)。私も多少戸惑いはありましたけど、母校に関わりたいという希望がかなったので、自分が出来る事を精一杯やろうって思ってます。」
ー北星余市に入学した経緯から教えて。
「元々私、高校に行こうっていう気持ちがなかったんですよ。高校は義務教育じゃないのに、みんながあたりまえのように必死で受験勉強しているのが異様な光景に思えたんです。なんで勉強してるの?って聞いても、納得できる答えを言ってくれる子がほとんどいなかった。そこに疑問を持たないことが疑問でした。結局人間としての中身じゃなく、学力だけを基準にしてランク分けされて進路が決まっていく状況に、すごい違和感があったんですよね。バスケットボールのスポーツ推薦で、一旦は私立高校に入学したんですけど、半年で辞めました。お金をかけて学校へ行く意味がわからなかった。

ーー ある意味麻美ちゃんは、周りがあたりまえだと信じ込んでいる価値観に流されない考え方の持ち主だと言えるね。飄々としていて、いいと思うよ。

でも、そう言ってくれるような大人は、その時周りにいなかったんです。

多様な価値観を求め、生徒として北星余市へ

ーー 北星余市は自分で見つけたの?

はい。北星を取り上げたテレビ番組を観たんです。それで、『この学校なら、学力だけじゃなく、人間としての中身を見てくれるかもしれない』と思いました。品川の相談会にも行ったんですよ。反対するお母さんにも一緒に来てもらって。本当に大反対で、泣かれましたけどね。

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ーー お母さん、寂しかったのかな?

遠くに行かせるのが心配だったみたい。でも、私は行きたくて、その理由をルーズリーフ1枚にびっしり書いて渡したんです。

ーー わ、それ読んでみたい(笑)。

どんなことを書いたか、覚えてないですけど。最後はもう、何を言っても行くんでしょって、諦めたように送り出してくれました。そういえば、北星に行かせてくれてありがとうって、まだ一度も言ってないですね。

ーー きっかけがないと、なかなか言えないもんね。

それが去年だったか、聞かれたんですよ。『行ってよかったと思ってるんでしょ?』みたいに。で、『うん、思ってるけど』って(笑)

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ーー ええ⁉︎それはチャンスだよ(笑)

やっちゃいましたね。

ーー 入学してみて、思い描いていたイメージとのギャップは?

なかったですね。思ったよりヤンキーが多いなっていうことくらい(笑)。私、そういう人たちとのつながりがほとんどない環境で育ってきてたから、お母さんはそういうところも心配みたいな事も言ってました。でも、私自身は何も不安はなかったんです。話せばみんな一緒だし。

ーー 元々、外見からの先入観って持たないんだね。

そういう人たちって本当にいるんだっていうくらい(笑)。見た目とかは関係なく、それぞれいろいろですよね。

ーー バスケは?

バスケ部がなかったんですけど、先輩が週に1回『金曜バスケ』っていうのをやってくれて、それに参加してました。楽しかったですよ。今も生徒と一緒にやってますけどね。

ーー スポーツ女子だもんね。生徒会もやってたんだよね。

修学旅行では実行委員、2年生の後期と3年生の前期は生徒会、最後はクラス副委員長でした。中学校の時からそういうのをするのが好きだったんですよ。みんなで何かを創り上げていくっていうのが。ひとつ上の生徒会の先輩たちがかっこよく見えたっていうのもありましたね。
 でも、今の子たちはすごいなって思う事が多いですよ。例えば、一人の子のためにみんながどうしたらいいか考えて話し合ってるのを見ると、自分はそこまで深く考えてやってたかなって。

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ーー その時はその時で、やってたのかもしれないけどね。

正直、3年間そこまで深く考えながら過ごしていた訳じゃなかったんですよ。後から振り返って気づく事の方が多いですね。北星余市は、ありのままの自分を受け入れてくれた場所。麻美には麻美のよさがあるんだって、先生たちがそういう姿勢でいてくれたから、知らず知らずのうちに自信を持てるようになった気がする。それが、中学までとの大きな違いかな。

母校で働く卒業生として北星余市へ

ーー 北星余市を卒業してからは、どうしてたの?

スポーツトレーナーを目指そうと、横浜にあるスポーツ系の専門学校に入って、6月くらいに辞めました。

ーー 決断早いね、また(笑)。

お母さんに、もうちょっと考えたら?って言われましたけど。教えてくれる先生自身が資格を持ってなくて、それを悪びれるでもなく、あたりまえのように『そんなに取れる人いないから』だって。こりゃ駄目だ、辞めよって。その後は、しばらくフリーターとして働いてました。

ーー 教育相談会に来てくれた事もあったよね?

そうそう、お世話になった先生に会いたくなって。その時林田さんから『何に悩んでるの?』って話しかけられたのをおぼえてますよ。相談者だと思われて(笑)。

ーー え?私そんな事言った?いいかげんだな(笑)。

悩んでるように見えたのかも。

ーー 若々しいから中学生に見えたんだよ。

嬉しいです。いい方に言ってくれて(笑)。悩んでたっていうのとは少し違いますけど、実は心のどこかで『母校に関わりたい』とは思ってました。

北星余市を卒業した後、様々な職業に挑戦していた麻美ちゃんでしたが、いつも心の中には「母校に関わりたい。恩返ししたい。」という想いがあったといいます。
でもそれは、教員免許を持っている訳でもない彼女にとって、現実的なイメージを伴うものではありませんでした。ところが、思いがけない転機は突然目の前に現れたのです。

出張で東京に来ていた今堀先生と食事してる時に何気なく『私、北星で働いてみたかったんだよね』って言ったら、『今募集してるよ』って。ええー⁉︎って驚いて、すぐ履歴書を送りました。

ーー 決断早い(笑)。

そんなチャンス、普通ないじゃないですか。それが2月の終わりで、4月から働く事を考えたらもう悩んでる時間もない。誰にも相談もせず、親にも『ちょっと北海道に行ってくるね』って(笑)。で、面接を受けたんですけど、3月の半ばになっても合否の連絡が来なかった。さすがにどうなってますか?って問い合わせたら、安河内先生からメッセンジャーで『お願いします』って連絡が来て。え?メッセンジャー?電話じゃないのって(笑)」
ー何その軽い感じ(笑)。実は忘れてたりして。
「それ、ありますよね。そういえば本人に連絡してなかったじゃんって(笑)。確か、2週間後には北海道に行かなきゃいけないタイミングだったんですよ。

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何はともあれ、事務職員でもあり卒業生でもあるという立場で母校に帰って来た麻美ちゃん。休み時間などには職員室に来た生徒たちによく声をかけられています。人気者の彼女ですが、当初は少なからず戸惑いがあったといいます。

どこまで話を聴いてあげていいのか、先生でもなく指導する立場でもないからわからなかった。いざ話を聞いて、それが重い内容だったりしたらどうしよう、無責任なことは言えないしって。子どもたちは可愛いし、話したいけど、どんな話をされるのか怖くて『私に話しかけないで』オーラをバンバン出してたと思います(笑)。でもある時からは、もうそんな事をいちいち気にしていてもしょうがないなと。

ーー 子どもたちは、話を聴いてほしい大人を先生かそうでないかで区別してる訳ではないもんね。

とにかく、まずは聴こうって。聴いて、その子のありのままの想いをしっかり受け止める事だけはしてあげようって思ってます。かつて自分がしてもらったように、生徒たちと向き合いたいんです。

ーー 職員として働く今と以前とを比べて、意識の違いはある?

入学前に教育相談会に参加したのは、もちろん自分のためだったし、卒業した後で参加したのは母校が恋しくなったからでした。今回、東京での教育相談会に初めて学校側の立場で来ましたけど、北星余市で救われる子がまだまだいるんだと感じたし、この学校を残したいっていう気持ちが強くなりましたね。それに、林田さんたちのように自分のお子さんが卒業した後も一生懸命動いてくださっている親の方たち。そういう人たちのために、自分も何かしたいっていう想いがあります。PTAの人たちが自主的にこんなに動いてくださるのは、あたりまえの事じゃない。そこを本当にわかってる?って先生たちに言いたいくらい(笑)。それも、在校生の頃と今との意識の違いかもしれないですね。

ーー 照れるなぁ(笑)。これからもお世話になります。

 

インタビューの翌日からは、お墓詣りを兼ねた旅行にお母さんと出かけるのだという麻美ちゃん。「そこで今度こそ言ってみようかな。北星に行かせてくれてありがとうって。」
ちょっとはにかむように微笑むと、そのキュートなエクボが、いっそう輝いて見えました。
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