初めての嘘

2020.12.16 コラム

写真家

辻田 美穂子

MIHOKO TSUJITA

記憶にある限り私が初めてついた嘘は、保育園の年長の時だと思う。当時流行っていた「セーラームーンごっこ」をすることになったのだけれど、他の子となりたいキャラがかぶって、私はふてくされてしまった。思い通りにならず腹がたつ気持ちと、こんなことでふてくされてしまう自分のくだらなさ。なんとも言い表せない嫌な気持ちでその場にいられなくなり、思わずグループを離れてしまった。しばらくして、年長組で一番優しい人気者のCちゃんが私の様子を見に来て、「○○ちゃんが他の役をやるから、美穂子ちゃんが××になっていいよ。」と伝えてくれた。Cちゃんほどの人気者が私を気にかけてくれている、本当はしたかったセーラームーンごっこができる、と嬉しくなったけれど、怒って聞こえないふりをしてしまった。勢いよく場を去ってしまった手前、素直になれなかった。Cちゃんは何も言わずに一旦戻ったけれど、しばらくして今度は他の子と一緒に手紙を持って来てくれた。手紙には「いじわるしてごめんね。いっしょにあそぼう」と書かれてあり、園庭でつんだ小さな花がセロテープでくっつけてあった。その時私は「いじわるされたわけではないし、本当は戻ってみんなと遊びたかったのに、どうして素直になれなかったんだろう」と、とてつもなく悲しくなった。そしてみんながセーラームーンごっこをするはずの時間を、花を探したり手紙を書くために使ってくれたのだと思うと、胸がきゅうっとなって泣いてしまった。今思うと、それは嘘とそれにともなう罪悪感だったように思う。

嘘ってよくわからない。自分を守るための嘘、相手をあざむくための嘘、はたまた助けるための嘘。伝えた本人が真実だと思うことも、相手にとっては嘘になったり、言いたいことが伝わらないまま嘘と捉えられてしまうこともある。そんな曖昧な存在かと思えば、一生心に残るひとことにだってなり得る。あれからたくさん嘘をついたし、つかれもしたけれど、未だに嘘が良いとも悪いとも言い切れない。けれども、何十年たってもあの時の悲しい気持ちは忘れられない。

文・写真:辻田美穂子

 

プロフィール

辻田美穂子 | Mihoko Tsujita

大阪出身の写真家。祖母の出身地である「樺太(サハリン)」の写真を撮るため2013年に北海道に移住。2018年より北星余市の写真を撮りに来ていたことがきっかけで、人生が一変!今年から余市在住。

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