毎月一回、変わってる

2019.08.01 コラム

卒業生

樫田那美紀

NAMIKI KASHIDA

あれは何百回目の生理だったか。月に一度やってくる、重くてしんどい、めんどくさい、なくていいなら来なくていい。そう思っていたあいつが、妙に興味深いものに思えてきたのは。それは辛い2日目を越えた3日目のこと。ぼんやり残る身体の重さを抱えて、私は大学から家への道を歩いていた。下校ラッシュが過ぎた18時頃。下り坂を降り、生け垣を曲がろうとした時、「あれ、変わってる」と思った。毎日通る道なのに、妙にハキハキして見える。ここ一週間頭を悩ませていた心配ごとが、少しどうでもよくなっている。自分の中身をまるごと入れ替えたような感覚。なんなんだ、これは。謎の感覚は、1ヵ月後またやってきた。その時も私は、生理の3日目だった。

この感じをどう説明すればいいのだろう。BGMがクラシックからレゲエに変わる感じというか、彼氏にキレたあと言い過ぎたことに気づく感じというか、インスタのストーリーに切れ目が入る感じというか。とにかく私は、1ヵ月に1度、切り替わっている。そしてその仕掛け人はどうやらあいつ。生理のようなのだ。これ、何かに似ている。そうして思い出したのが2年前の沖縄旅行だ。もわりと湿気づいた風と、すぐそこに海。見慣れない車のナンバー。こってりとした味つけ。そこは、いつもとは違うにおい、空気、音に、満ち満ちていた。そんな別の感覚に1週間身を委ねた後、住む街に帰り、その見慣れた風景を眺めたあの時も、「あ、変わった」と思った。

旅が、普段と違う感覚に沈む営みであるならば、突然の経血、鈍痛、身体が重くなる生理もまた、私の感覚をひとときの間乗っ取ってくる点で旅に似ている。それは小さく、あまりにもささやかだ。それでも私が生理によって切り替わっているのは、そんな“違う感覚”が、普段の日常の中で澱み、詰まり、引っかかっていた何かを、洗い去ってくれているからかもしれない。だからといって、生理最高! とはならない。それは相変わらず厄介で、めんどうだ。でも、私の体が勝手に巻き起こしてくれる私の変化を、私は少しだけ面白がり始めている。

文:樫田 那美紀

 

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