ライ・イズ・ビューティフル

2020.12.16 コラム

北海道教育大学 教授、臨床心理士

平野 直己

NAOKI HIRANO

ウソとは、事実でないこと、本当ではないことです。ウソには事実や本当のことを隠しておく機能があるのです。どんな事実が、どのような意図によって隠されているかで、悪いウソにも良いウソにもなるし、人を傷つけることも、人や社会のためになることもあるのです。それなのに、頭ごなしに「ウソをついちゃいけない!」なんていう大人がいるから厄介です。そう言っている人こそウソつきだったりするのです。人を楽しませたり、子どもを成長させたり、悲しみや怒りを癒したり、生きる力を与えてくれるウソだってあります。それらは名前を変えて私たちの身近に存在しています。その代表が「遊び」です。

例えば、机。ひとたび遊びが始まると机は船にも、牢屋にも、秘密の隠れ家にも、走る列車の天井にだってなります。自分が正義のヒーローになって、怪獣に扮したお父さんを完膚無きまでにやっつけることだって、遊びならばできるのです。あの大きな東日本大震災の後、被災地のあちこちで子どもたちが嬉々として「津波ごっこ」で遊んでいたのは、災害によって味わわされた無力さ、無念さ、悲しみや怒りから、回復しようとするチャレンジだと考えられています。

愛おしいほどのウソを描いた映画『ライフ・イズ・ビューティフル』。第2次大戦中に妻と息子とともに強制収容所に送られたユダヤ系イタリア人のグイドは、息子を恐怖から守るために「これはゲームなんだ。泣いたり、ママに会いたがったら減点で、いい子にしていたら点数がもらえる。1000点たまったら、本物の戦車に乗ってうちに帰れるよ」とウソをつきます。結末はぜひ作品を観てください。ウソは、悲惨な現実から本当の自分を守ってくれるシェルターになることもあるのです。こんな悲しくて美しいウソのつき方ができる人になりたいなと私は思います。

北星余市高校はいい学校です。勉強ができるようにはならないかもしれないけれど、いい経験といい仲間が得られます。あなたにとってこれはどんなウソとなるのでしょうか。このウソからマコトが出てくるかな。

文・写真:平野直己

 

プロフィール

平野直己 | Naoki Hirano

北海道教育大学 教授、NPO法人余市教育福祉村 理事長。臨床心理士として子ども・若者とその家族の心理支援をテーマに心理療法からフリースクールやキャンプまで様々なフィールドで、多様な専門と個性を持つ人たちとともに活動をしている。

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